ムーブメント・エデュケーションの発展
ムーブメント・プラクティスの文化の片鱗は元々『ムーブメント・リサーチ (動きの探求)』としてダンス、サーカス、武術、体操の中に根強く存在していました。人間の本質として『動き』という要素が生活や人生の中枢にあるからでしょう。太古の時代から生存する為、またより生きる為に自分の身体と向き合うことがあった当然の事だったのです。

ムーブメント・エデュケーションの基盤は19世紀にフランスの音楽教師フランソワーズ・デルサルトにより構築され始めたと言われています。彼は独自の哲学を元に身体を表現的に動かす理論として『デルサルト・メソッド』を作り上げました。デルサルト・メソッドは脳、身体と魂の繋がりを作り、更には時間、空間に対する動作の調和を目的としたメソッドでこれらを達成する為にデルサルト氏は『9つの動作的法則』作りました。デルサルト氏の9つの動作的法則では『attitude/姿勢』、『force/力』、『motion/ 動作』、『sequence/連続性』、『direction/方向性』、『form/型』、『velocity/速度』、『reaction/反応』、『extention/拡張』の9つの要素が人間の身体操作を司ると考えました。

20世紀初頭にはヨーロッパを中心に世界的にムーブメント・エデュケーションを始め、『動作学』や『身体操作』『動作理論』など<自然に自身の身体を自由自在に操る能力>が重要視され始め、フランス軍将校のジョルジュ・エベル氏による『ナチュラル・メソッド』(後のパルクール) やカール・デューム氏による「様々な状況の中で自然に身体を機能的に操る」事を学ぶ場としてケルン体育大学が設立された。当時のムーブメントに対する考えの主流として4つのコンセプトがあり、1) 動作をする為の機能的器具としての身体の理解、2)空間に対しての身体操作の理解、3) 動きが実行される質感に対しての理解、そして 4) 障害物や他人、状況や環境に対しての身体操作的相互関係の理解を通して人間の動きを考える事がされていました。人間は様々な動作パターンや思考パターンを持つ複雑な生き物で『身体動作』について考える時に学術的、教育的、哲学 的要素が多く含まれてきました。身体を自由自在に動かすことが脳や人格の発展にも繋がると考えられたのです。

しかしこれらのムーブメント・コンセプトは1970年代から始まるフィットネス文化のブームにより大きく社会的認知度が衰退していきます。単純なシステムを通して動き の簡略化が行われる事により動作鍛錬が一般化され幅広い層が運動しやすくなった反面、脳の発展にも繋がるような身体操作的要素が全く含まれなくなり、『様々な動作パターンを使いこなしどんな状況でも自然に自由に動ける事』よりも『科学的エビデンスを元に構築されたシンプルでシステマチックな機械的な動さを通しての動きの効率化』の方が重要視されるようになりました。そして様々なトレーニング用の機械や器具、メソッドの発展により効率的で機能的効果を求める現在のフィットネス/トレーニング文化が生まれたのです。一般層の間でムーブメント・エデュケーションの考え方や哲学、メソッドが廃れて行った中でダンス、サーカス、武術、体操、軍事訓練の中で常に受け継がれ存在し続けたのです。
そして時は2000年代初期に移ります。
コンテンポラリー・ムーブメント・エデュケーションの発展
2000年代の始めにムーブメントエデュケーションが体系化されたいくつかのムーブメントの教育機関が頭角を表します。
『Diversity Creates Immunity/多様性から生まれる健康性』という概念を元にアメリカの格闘家/ヨガ実践者のカメロン・シェイン氏が考案したブラジリアン柔術と総合格闘技の中にヨガ、カリステリックスの要素を取り組んだ Budokon University (創立2000年)、ジュニアアメリカ器械体操代表のコーチとして40年の間活躍したクリストファー・ソマー氏により考案された器械体操のトレーニング要素を動作学的解釈を等して細分化された身体操作メソッド Gymnastics Bodies (創立2004年)、 そして元プロバスケ選手で中国医療、コミュニケーション学に精通した格闘家/ダンサー/振付師のジョセフ・フルチェック氏と元々トップレベルの器械体操選手で現在は世界トップレベルの伝説的コンテンポラリーダンサーとして活躍するリンダ・カペタニア氏により多様なムーブメント・リサーチをベースに作られた Fighting Monkey Practice (創立2002年) を筆頭に人間の動作を深い次元で追及する団体が次々と世界的に現れます。
この三つの団体が現在のムーブメント・カルチャーの基盤を作ったと言っても過言では無いでしょう。2010年になる頃には GMB fitness や MovNat、Animal Flow など一般層に落とし込みやすいようによりフィットネスよりのムーブメントエデュケーションが生まれフィットネスやトレーニングの業界の中にムーブメント要素が少しづつ取り込まれるようになる。それでもやはりムーブメントはとてもニッチなカルチャーで中々世の中には浸透しておらず一部のスペシャリストの間で行われる物でした。
そんな中、ムーブメントという言葉を世界に知らしめた一人の男が現れました。
イド・ポータル氏がいなければムーブメントが世界的にここまで広まる事はまず無かったでしょう。

Ido Portal の道のり
元々イスラエルでカポエイラ・スクールを運営していたポータル氏でしたがより深い身体操作の極意を見出す為に世界中を渡り様々なムーブメント・コーチの下に弟子入りして修行の日々を過ごしていました。
そんな中「世界にあるムーブメント・エデュケーションの殆どはあくまで様々な文化の組み合わせや派生であり本当の意味で全ての身体操作を司る原石的なムーブメントを教えるムーブメント・エデュケーションやムーブメント・コーチが存在しない」と感じたポータル氏は自分が真のムーブメントの体現者になる事を目指す事を決意して『Movement Culture/ ムーブメント・カルチャー』という一つの概念を作り上げました。そしてそれまで運営していたカポエイラ・スクールを『Ido Portal School of Movement』としてムーブメントを鍛錬する場として新しい形で完全リニューアルしたのです。
その後、そのレベルの高い身体操作能力を評価されポータル氏は元UFCの二階級王者のコナー・マクレガー選手のムーブメント・コーチとして就任します。そしてマクレガー選手が有名になればなる程、相乗効果としてムーブメントの考え方も世界に知れ渡っていったのです。
現在では様々なムーブメント団体や個人で活躍するムーブメントコーチがセミナーやワークショップ、パーソナル・セッションを通して世界中で活躍し、Movement Camp (イド・ポータル氏主催する) 、Fighting Monkey Intensive (ジョセフ・フルチェック氏主催)、Move Copenhagen や B12 Festival など参加者100人以上の規模のリトリート式のムーブメントワークショップも頻繁に行われるようになりました。
日本でのムーブメント
武道、相撲、日本舞踊など日本にも数々のムーブメント文化が存在しています。いずれも技術面、肉体面、そして特に精神面の成長を促進しているということが特徴といえます。礼節を重んじ、相手を敬うことや精神を整えることなど身構え、心構えを身につけることで人として成長することができます。
素晴らしい日本のムーブメント文化が存在していると同時に素晴らしいムーバーも日本津々浦々に存在しています。
そんな素晴らしいムーバーのみなさんをより多くの方々に知って頂くためにムーブメントの普及活動をしていきます。
みなさんでこれから新しい歴史を一緒に作りましょう。